行政書士試験記述式過去問分析(平成18年度)

行政書士

(本日のコンテンツ)
1 平成18年度(問題44)条文型
2 平成18年度(問題45)条文型
3 平成18年度(問題46)条文型

皆様、おはようございます。
問題及び解答は、いわゆる孫引きですが、問題は、大原との突合せで、当時の問題で間違いないと思います。一方、解答は、本当に当時センターが発表したものかどうか不明なので、解答に対するコメントは差し控えています。

1 平成18年度(問題44)条文型

(問題文)
保健所長がした食品衛生法に基づく飲食店の営業許可について、近隣の飲食店営業者が営業上の利益を害されるとして取消訴訟を提起した場合、裁判所は、①どのような理由で、②どのような判決をすることとなるか。40字程度で記述しなさい。

※ 丸数字及び赤字などは、理解を助けるため、まるやが付したものです。

(当時の正解例)
原告は、①法律上の利益を有せず、原告適格を欠くという理由で、②却下の判決をする。(38字)

(まるや解説:標準)
まず、行政事件訴訟法(昭和三十七年法律第百三十九号。以下「行訴法」という。)第9条第1項の骨子は、次のようになります。

処分の取消しの訴えは、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。

さて、近隣の飲食店営業者というのは、ライバル店が増えるからと言って、当該ライバル店の飲食店許可の取消しを求める法律上の利益があると思いますか?
確かに、近隣に同種店舗を展開されれば、自店舗の売上が落ちる可能性がありますし、公衆浴場には、今でも距離制限が残っています。
でも、飲食店に、そういった規制はありません。というか、競争激しい飲食店営業者に、新規参入を邪魔することが許されるような法律があるわけないじゃないですか。

とすれば、本問の飲食店営業者に行訴法第9条第1項の法律上の利益なんてありませんから、本問の場合は、同項の規定により、処分の取消しの訴えを提起できないわけです。

で、法律上、提起できない訴えを裁判所に持っていたとしても、訴えの要件を満たしていません。
=不適法「却下」になります。

なお、同条第2項の「法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。」の件は、とても重要なので、この機に読んでおいてください。

(現場合わせ)
原告は、①法律上の利益を有せず、原告適格を欠くという理由で、②却下の判決をすることとなる。(43字)
・「することとなるか」と問われたので、「することとなる」と答えています。

○行政事件訴訟法(昭和三十七年法律第百三十九号)
(原告適格)
第九条 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

2 平成18年度(問題45)条文型

(問題文)
売買契約において買主が売主に解約手付を交付した場合に、このことによって、買主は、どのような要件のもとであれば、売買契約を解除することができるか。40字程度で記述しなさい。

※ 赤字は、理解を助けるため、まるやが付したものです。

(当時の正解例)
相手方が契約の履行に着手するまでに、手付を放棄して、契約解除の意思表示をする。(39字)

(まるや解説:標準)
まず、民法第557条第1項を見てください。
今回は、買主が売買契約を解除したいので、買主は、同項の手付を放棄すれば、契約を解除することができます。

しかし、同項のただし書に該当(相手方(売主)が契約の履行に着手した後はこの限りでない)をすると手付の放棄だけでは解除できなくなります。
本問は、「このことによって」とあるので、「解約手付を交付したことによって」解除することができるケースをきいていますので、ただし書に該当しないケースを答えることになります。
=同項のただし書に該当しなければ、「解約手付けを交付したことによって」解除することができる。

(これを条文に沿って書くと)
売主が契約の履行に着手するまでに、買主はその手付を放棄して、契約の解除をすることができる。(45字)
(問われているのは要件なので、要件を書くと)
解除の要件は、売主が契約の履行に着手するまでに、交付した解約手付を放棄することである。(43字)
・要件は次の2つ
①手付を放棄すること。
②ただし書に該当しないこと。=相手方が契約の履行に着手した後でないこと。
どのような要件のもとであれば、売買契約を解除することができるか、と問われているので、「要件」を書きましたが、これで減点されるとがっかりですね。

○民法(明治二十九年法律第八十九号)
(手付)
第五百五十七条 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
2 第五百四十五条第四項の規定は、前項の場合には、適用しない。
(解除の効果)
第五百四十五条 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3 第一項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
4 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

3 平成18年度(問題46)条文型

(問題文)
AはBに対して3,000万円の貸金債権を有しており、この債権を被担保債権としてB所有の建物に抵当権の設定を受けた。ところが、この建物は、抵当権設定後、Cの放火により焼失してしまった。BがCに対して損害賠償の請求ができる場合に、Aは、どのような要件のもとであれば、この損害賠償請求権に対して抵当権の効力を及ぼすことができるか。40字程度で記述しなさい。

※ 赤字は、理解を助けるため、まるやが付したものです。

(当時の正解例)
CがBに対して払い渡す前に、損害賠償請求権をAが差し押さえなければならない。(38字)

いわゆる物上代位の問題です。世の中でよくある例を書いてみますと、
・Aさんは、ローンで家を購入しました。
・Aさんにお金を貸した銀行(以下この例で「銀行」という。)は、Aさんの家に抵当権を設定しました。
・銀行は、Aさんに対し、Aさんの家に火災保険を掛けさせました。(お金持ちは知らないかもしれませんが、普通のことです。私も住宅ローンを借りたときは、借入時点の一括払いで火災保険に入りました。)
・Aさんの家が隣家からの延焼による火事で焼失しました。
・Aさん一家は、誰一人死なず、傷つきもしませんでしたが、Aさんは住む場所がなくなってしまいました。
・紆余曲折を経て、仮住まいを定めたAさんは、銀行に事の顛末を報告しました。
・しばらくすると、火災保険を掛けた保険会社から、Aさんの火災保険金の請求権が銀行に差し押さえられたとの連絡がありました。
・Aさんはびっくりです。(そういえば、銀行に火災保険に入らされていたな…)

元々、銀行が抵当権を設定したのは、Aさんの家だったのですが、Aさんの家は、火事でなくなってしまったので、換価価値がなくなってしまいます。このような場合、抵当権者である銀行は、Aさんの家がなくなったことにより、Aさんの手にするお金(この場合は火災保険の保険金)に抵当権の効力を及ぼすことができます。

このような効果を物上代位といいます。

なお、保険金は、保険事故が発生したときに、掛金に対して発生するものだから、今回のケースも、抵当権の目的物であるAさんの家が姿を変えたものではなく、Aさんの掛金が姿を変えたものなので、抵当権は及ばないという人もいますが、実務上も裁判上も及んでしまうので、万が一、Aさんのような目にあったとしても、家族全員の無事を喜び、保険金のローン返済分は諦めましょう。

さて、それでは、条文に当てはめていきます。民法第304条第1項は、抵当権にも準用しますので。。。
(条文に沿って書くと)
先取特権(抵当権)は、その目的物(B所有の建物)の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者(B)が受けるべき金銭(BのCに対する損害賠償請求権の転じたもの)その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者(抵当権者=A)は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
(枝葉を取ります。)
抵当権は、B所有の建物の滅失によってBのCに対する損害賠償請求権の転じた金銭に対しても、行使することができる。ただし、Aは、その払渡しの前に差押えをしなければならない。
(さらに簡潔に)
抵当権は、BのCに対する損害賠償請求権に行使することができる。ただし、Aは、その払渡しの前に差押えをしなければならない。
(問われているのは要件なので、要件を書くと)
BのCに対する損害賠償請求権の転じた金銭の払渡しの前に差押えをしなければならない。
(要件は、として解答にすると)
要件は、BのCに対する損害賠償請求権の転じた金銭の払渡しの前に差押えをすることである。(43字)
(日本語としていまいちなので、修文します。)
要件は、CがBに損害賠償金を払い渡す前に、Aが当該損害賠償金の差押えをすることである。(43字)

○民法(明治二十九年法律第八十九号)
(留置権等の規定の準用)
第三百七十二条 第二百九十六条、第三百四条及び第三百五十一条の規定は、抵当権について準用する
(物上代位)
第三百四条 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない
2 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

それでは、本日は、この辺りとさせていただきます。
今後とも、家内安全を第一に、無理のない範囲でお取組ください。

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